《 第3回 寮生活のこと(ストームの洗礼)》                                                                                               2009.03.07
                                                  

旧制高等学校と寮生活は切っても切れない関係がある。
松山の寮は三光寮と言ったが、その由来は校章からである。真・善・美を表し、これとよく似たものに同志社のものがある。
同志社のものは挿絵の逆三角形が全部詰まっていて銀色であったと思う。そしてそれが知・徳・体を現している。



地元出身者以外は殆ど入寮するが強制ではない。
寮の建物の配置は右のようであったと記憶している。看護室は吾々が入学した頃は釘付けの開かずの室であった(?)。

各寮の間には3本ずつ位のさくらの大樹があり、その枝の端々は両側の寮に届かんばかりで、4月の満開時は実に見事で、夜でも白く浮き立つ様な夜桜を楽しむことが出来た。事務室には手廻しの古い電話機があったが、入寮中に唯1回だけ借りたことがある。寮は学校の校地の東南の角に位置していた。その東側は田圃が続いていた。

寮生活は初めてで、何かと戸惑うばかりであった。入寮早々、身の回りのものを入れるべく押入れをあけて、その中の落書きにまずびっくりした。政治とか純文学的なものに至るまで一面に書いてある。亡くなった元の共産党書記局長宮本顕治氏は松山の7回生で(小生は21回生)あったとのことである。

当時受験雑誌であるていど知っていたが、まずストームの洗礼を受けた。入寮してほどなくの頃の真夜中に、急にあちこちの寮棟から大声で怒鳴る蛮声と、板張りの廊下に木魂(こだま)する下駄の音で目がさめ、それが段々近付いてくるのは分かるが、なす術もなく布団の中で固唾(かたず)を呑んでいた。
到頭、部屋の窓や玄関(?)から数名の猛者蓮が乱入して来た。羽織、袴、下駄履きのまま布団の上から馬乗りになって、先ず出身中学、運動部の経験、在校中の先輩等々を聞かれた。「神戸二中」と答えるや否や、相手は「神戸二中は柔道、バスケット、ラグビー、器械体操・・・・・」強い学校だなあ、と持ちあげて、自分達の部に入れと強引な勧誘で、思い通りにならないと思うと最後に、口をあけろと言って大きい、とてつもなく大きいアメ玉を無理矢理詰め込んで、数滴の得体の知れない液体を飲まされて、やっと開放された。

こんな夜が日続いた、私は二中の先輩のいたグライダー部へ入部することにした。横に寝ていた二中の同輩も同じく受難の数夜を過ごした。

人権無視も谷(きわ)まれり、である。ストームは学校が始まる頃には全くなくなった。

入学してヶ月も経つと寮生の連中と親しくなり、その中にはまたと得難い親友も出来て、お互いの人生を死ぬまで豊にしてくれたし、不幸にして亡くなった友を回想していると、今も松山時代を懐かしく、楽しく思い浮かべるのに飽きることはない。「昔を今になす由もがな」の心境である。

理科、文科の別なく、どの友人にも共通して読書家が多く、当時の学生が愛読した学生向の書物を多読し、又、映画を和洋の別なくよく見ていた。
当時、映画は阪神地区で公開されたものが時期遅れで上映されていた。映画の看板は矢張り京阪神より少し垢抜けしていなかった。長谷川一夫、李香蘭競演のものが人気があったように思う。佐分利、上原、佐野、徳大寺、高峰、水戸、桑野・・・・・の俳優さんが活躍していた。
                                                   平成
2116


  [水島氏の追記]                                     

松山の3回目の投稿を戴いて、思い出話以上に驚いたのが「谷まれり」という表現でした。
ルビを振っていただいたので読めましたが、こういう読みがあるのかと思いました。恐らく49陽会の10人に9人は読めないのではないでしょうか?
偶然にも時同じくして、東京朝日新聞2月22日付朝刊に新講社の広告が載り、谷の読み方を問うていました。
広辞苑では(きわまる)で谷が出てきませんが、漢和辞典では谷で(きわまる)の読みが出てきます。

きわまるには窮、極、究、谷があってそれぞれ意味が違うようです。

窮:ゆきづまり、また苦しむこと  
極:頂上・至極 ゆきついてもはやその先はないこと
究:行けるところまで行きつくすこと 物事の奥底までたずねきわめること
谷:谷に落ちたように、あとへも先へも行けぬこと(この字だけはきわめると読めない)

皆さん、これらの字を上手く使いこなせますでしょうか?
                                           

            戻る